汽車の旅@ 寝台特急体験の巻 其の一


 久々に寝台特急「あさかぜ」に乗った。20年振りの「あさかぜ」との再会である。この間に2等寝台はB寝台へ、3段式から2段式や個室へと進化して、誰でもが気軽に乗車できる列車に成長していた。高校から大学までの7年間を国鉄のアルバイトで過ごし、産まれた時から「汽車キチ」(決してマニアではない)と自他ともに認める筆者である。情報として鉄道車両の性能や接客設備の向上改善は知っていたが、自動車社会にどっぷりと漬かっている筆者にとって、「あさかぜ」は眠っていた『汽車のムシ』呼び起こし、「寝台特急とは何か」という問題を提起してくれたのである。乞われるを幸と、乗車体験ルポを皮きりにして、筆者なりの鉄道賛歌を書いてみたい。

 2月8日18時54分。東京駅10番線ホームには長距離列車ホーム独特の張詰めた緊張感と慌わただしさが小気味よく漂っていた。別れ、旅立ち、ホームのいたる所でそれぞれのドラマが演じられている。
 ホームに小さなどよめきが起こった。「あさかぜ1号」の入線である。乗客の熱い視線の中、助役と挨拶を交わす車掌の白い手袋が青い車体に鮮やかに映える。

 ホーム先端では停止と同時に小荷物(ブルートレイン便)の積載が始まっていた。電源車荷物室を利用するため積載量は5トンと少なく、取扱駅も限られているが、小荷物が翌日の午前中に届く速達性が受けたのであろう。連日満載に近いとのことである。新幹線のレールゴーサービスと共に、JRならではのサービスに注目したい。

 ホームの中程では車掌がホームに出て旅客案内に努めている。その姿には看板列車に乗務する誇りと、長い経験に裏付けられた余裕があふれ、旅客に「安心」という無言のサービスを行っている。 15両の長い編成の中、屋根の曲部まで窓がある6号車が一際目立つ。この車両の8番(B寝台二人個室「デュエット」上段室)が今晩のネグラである。場内出発信号(ホーム先端にある)が青に変わったのを確認して乗車した。

 着席と同時にかすかに発車ベルが聞こえたが、車内はいたって静かである。僅かな揺れと共に景色が流れ始めた。青い流れ星「あさかぜ」の旅立ちである。ホームを見おろす車窓には格別なものがある。煙と何とかは高い所へと言うが、個室寝台は上段室に限るようだ。
PHOT デュエットPHOT ミニロビー 発車したところでデュエットを紹介しよう。この車両は寝台設備の向上の第一弾として民営化直前の国鉄で誕生した。一般寝台を改造した車両で、B寝台二人個室8室(定員16名)、ミニロビー、シャワー2基を備えたデラックス車両である。特急・寝台料金は二人分の合計額(18540円)で部屋単位に発売する。九州方面の寝台特急では「あさかぜ1・4号」に1両(8室)あるだけなので、手に入れにくいのが玉に傷である。
 個室は上段室と下段室が4室づつになっている。下段室は凸形で中央床面が平らになっている。上段室はその逆で、中央床面の約半分が階段になっている。設備はほぼ同じであるが、室内に出っ張りが無いため広々とした感じがする。

 室内設備は浴衣、スリッパなどの一般設備の他、4チャンネルのBGM、エアコン調整などが揃っている。A寝台個室には及ばないが落ち着いた空間である。  車内放送が終わると車掌が検札にやってきた。列車は間もなく多摩川を渡ろうとしている。

 ノックの後「乗車券を拝見します」との声。「どうぞ」と応えると、さらに「開けますよ」と念を押してから入ってきた。室内から通路が見えないだけに、車掌の細かい気配りがうれしい。乗車券を確認しながら到着時刻を案内してくれる。検札と言うと「疑われているようで」と嫌う人も少ないが、検札は旅客案内も兼ねており、旅客にとっては貴重品を確認するいい機会となるのだから、気持ち良く応じたいものだ。特に長距離列車では、車掌と仲良くなることが旅を楽しくする秘訣である。

 左手に並行する京浜急行線が見えてきた。東京を出てから30分。1200キロを走り抜く列車にとっては軽い足慣らしの区間と言ったところか。甲高い汽笛を響かせて横浜駅に到着した。


(「ながれやま・わが町」平成2年4月号掲載)


EF65目次へ次章へ次章へジャンプ書き込み
トップページ目次次章へ読み直し書き込み