汽車の旅C なぜ「あさかぜ」か


 寝台特急「あさかぜ」を選んだ時、人からは「16時間もかけて、高い運賃のJRを使うのか。新幹線や飛行機の方が速くて便利なのに。」と聞かれた。とんでもない。飛行機よりも安く、新幹線よりも速い。そして、ゆとりのある旅にするために寝台特急を使ったのだ。こう書くと変に思われてしまうから、今回はその種明しをしておきたい。

 先ず、今回の旅程を知っておいて欲しい。
2月 8日 17時以降から自由。
2月 9日 夕方までに甘木(福岡県南部)に到着する。
2月10日 15時過ぎまで用事。その後博多へ。19時までに到着する。
2月11日 夕方までに長崎へ到着。
2月12日 午後から自由。寝台特急を利用する場合は夕方に乗車。
2月13日 夕方までに流山へ帰着する。

 このスケジュールでは、移動の合間にちょっと立ち寄る程度の観光しかできない。妻は初めて九州に行くので、いろいろと見せてやりたいと思うが、それもできない。自然と、移動そのものを楽しむ旅となった。

 さて、九州までの交通機関であるが、自家用車、飛行機、新幹線、在来線といろいろある。所用時間は当然ながら飛行機と新幹線が速い。自動車は単純計算でも、運転だけで15時間はかかる。疲れることを考えると途中で一泊したくなるのが人情。帰りも考えると楽しいドライブとは程遠い。フェリーは36時間もかかるので、もっと時間のある時に利用したい。結局のところ、飛行機、新幹線、在来線の中から選ぶことになった。

 次に、2月8日17時以降に流山を出発することとして、一番速く博多に着く方法を調べた。翌日の昼頃までに博多に着けば、太宰府くらいは立ち寄れる。


交通機関
発駅日時
着駅日時
便名
所要時間
飛行機 羽田・9日07時55分発 福岡・9日09時35分着 全日空243便  1時間20分
新幹線 東京・9日07時00分発 博多・9日12時57分着 ひかり3号  5時間57分
在来線 東京・8日19時05分発 博多・9日10時57分着 あさかぜ1号 15時間52分


 当然ながら、飛行機が速い。が、空港で荷物を受け取ってから博多駅に着くまで1時間は必要である。従って、飛行機を利用しての博多到着は10時35分。在来線と変わらなくなってくる。  もっとも、飛行機は8日の最終便に乗れるのだが、福岡到着が22時である。午前中の僅かな時間を稼ぐために、博多で宿泊するのはいたずらに旅費を高くするだけなので考えないこととした。

 次に交通費から検討してみよう。JR九州は特急が多く走っているため、九州内での移動は全部特急を利用すること。ワイド周遊券のように、九州内の乗車券と特急券がセットになっている切符を利用することを条件として旅費を計算すると、表のようになった。JRが断然安い。私の旅は旅費の魅力と時間の良さで、往復とも在来線の寝台特急を利用することとした。

飛行機利用 新幹線利用 在来線(寝台特急)利用
区 間 種別 金 額 区 間 種別 金 額 区 間 種別 金 額
流山〜羽田 往復 1260円 流山〜金町 往復 700円 流山〜金町 往復 700円
羽田〜福岡 往復 48500円 都区内〜博多 往復 34680円 ワイド周遊券 往復 28430円
福岡〜博多 往復 480円 博多〜甘木 往復 1320円 特急寝台券 往復 18540円
博多〜甘木 往復 1940円 博多〜佐世保 片道 3490円 特急券 片道 1640円
博多〜佐世保 片道 3490円 佐世保〜長崎 片道 1830円 佐世保〜長崎 片道 1830円
佐世保〜長崎 片道 1830円 長崎〜博多 片道 4120円      
長崎〜博多 片道 4120円            
合 計 58920円 合 計 46140円 合 計 51140円


 飛行機を希望していた妻の顔には、不満が見え隠れしている。以前に乗った3段式寝台で懲りているらしい。「線路や車両が良くなった。」説明しても納得しそうにない。寝台特急に乗るチャンスを逃してはならない。そこで「北斗星」のビデオや鉄道雑誌を見せ、「これと同じ車両に乗るんだ。」と正月から連日の教育を行ったところ、呆れ顔で納得した。こうなれば私の独壇場である。とうとう「汽車の虫」が目覚め、列車選定に神経を集中することになった。

 先ずは東京〜博多間の寝台特急である。車両設備から2人用個室やシャワーのある「あさかぜ1号」が有力候補となった。しかも、出発日が満月なので、月にきらめく相模灘が期待できる。日の出時刻が午前7時頃なので、瀬戸内の波打ち際を走る時間帯と一致する。車窓の醍醐味も申し分ない。決定である。これなら妻も納得してくれるであろう。
PHOT ハイパーサルーンPHOT オランダ村特急 次は博多〜久留米間の特急である。これは新型車両で走る「ハイパー有明」乗降デッキを車両の中央に配した斬新なデザインと、グリーン車に匹敵するインテリアで若い女性に人気がある。博多〜佐世保間は「オランダ村特急」を使いたい。この列車は運転席が2階にある展望気動車だから、どうしても展望席を確保したい。鉄道雑誌で席番を調べて特急券を確保した。帰りは長崎から東京へ直通する「さくら」か「みずほ」とした。この列車なら熱海辺りで途中下車をして、梅園などを見て気分転換もできる。

 なお、新幹線の旅費計算に使った「指定席往復割引きっぷ」はB寝台を利用できるのだが、個室寝台を利用するために、敢えて割高になる「北九州ワイド周遊券」を使った。
 こうして「あさかぜ」を選んだ訳であるが、時刻表を丹念に読むか否かで、こんなに違ってくることがお判りいただけたかと思う。

 これからの旅行シーズンを前に、地図を片手に、じっくりと時刻表を読むことをお勧めしたい。車窓の移り変わりも旅の楽しさなのである。

(「ながれやま・わが町」平成2年7月号掲載)

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